古来より、祭りは恋愛の舞台だった。
毎年周期的にやってくる節目であり、非日常の時間でもある祭りは、特別な人と過ごす時間、特別な思いを伝える場所として、最も適していた事は想像に難くない。
現代においても、祭りが恋の舞台装置として変わらず機能している事に疑いはなく、
「夏祭りに好きな子を誘って浴衣でデートをする」という、振り返るとどこにもチャンスがなかったシチュエーションが、日本人だれしもの共通体験の様になっているほどだ。
「ナツメキッ‼」という、よさこい祭りを題材にした恋愛漫画がある。
東京から四国に引っ越した、女子高生 棗が、クラスメートの結大からよさこいに誘われ、恋によさこいに奮闘するお話で、高知や原宿といった現実の祭りが登場するため、よさこい人なら是非押さえてもらいたい作品である。
追手筋や帯筋、明治神宮といった、思い出の会場が漫画で描かれているのはとても魅力的。さらにリアルさを追求し、筆山荘での雑魚寝シーンや、アムウェイビルでの着替えシーンまで書いて欲しかったのが正直なところだ。
さて、肝心のストーリー。
踊りの練習や衣装の作成といった祭りの準備の過程や、非日常空間で踊るワクワク感を描きながら、そこを通じ男女の仲が進展していくことは、恋愛漫画としてとても素直な構成で、よさこい人の端くれとして、とても応援できる作品だ。
よさこい祭りに恋を持ち込むことに怒りを覚える僕としても、漫画なら、恋とよさこいどっちも楽しめるなと、期待して読みすすめていた。
…しかし!
…しかしだっ…!!
この主人公、棗。とんでもないビッチ。
よさこいに誘ってくれた結大を好きでいながら、告白された栄人と付き合い、やっぱりなんか違ったから別れて結大にいく。この期間、高知から原宿。同じ8月中の出来事である。
祭りの休憩時間は男の事ばかり考え、見る限り隊列確認もろくにしていない。この様子だと、演舞前の貴重品回収もちゃんと手伝っていないだろう。
そこで思い出したこと。
祭りに恋愛を持ち込むことが反対なのではなく、祭り自体がおろそかになる事、それがもったいないと感じていたことを思い出した。
非日常であるゆえ、恋愛の舞台になりやすい事は疑いはない。しかし、練習の成果や、その日だけ会える人や、いつもと違う街の風景や、そんな要素を全部楽しんでこその祭り。
棗に伝えたい。
お祭りは、君が恋のソロパートを舞うための演舞場じゃないよ、
みんなで一緒に作り上げて、その中で初めて感情を表現するんだよ、と。
よさこいを題材にする以上、そういった祭りと恋愛の距離感にうまい回答を見せて欲しかったかな。是非、皆様一読を。